畑が獣害で台無しに。捕獲するには手続きが必要?
県庁職員として獣害対策を担当していた筆者が獣害対策の手続きについて解説いたしますので、獣害対策をお考えの方はぜひご覧ください。

畑が獣害で台無しに。捕獲するには手続きが必要?


数ヶ月間、一生懸命に育ててきた作物がやっと収穫の時期に。
いざ収穫に向かうと、イノシシやシカなどによる獣害で作物は全滅。
そんな経験をしてがっかりしたことはありませんか?

 

ここでは、県庁職員として獣害対策を担当していた筆者が獣害対策の手続きについて解説いたしますので、獣害対策をお考えの方はぜひご覧ください。

獣害対策の3本柱

獣害対策を行う上で重要な対策として、「個体群管理」「侵入防止対策」「生息環境管理」の3本柱が挙げられます。
それぞれ簡単に説明すると以下のとおりです。

個体群管理

 

獣害の原因となっている鳥獣の捕獲

侵入防止対策

 

柵の設置等による被害防除

生息環境管理

 

刈払いによる餌場・隠れ場の除去(緩衝帯の整備)、放任果樹の伐採、収穫残渣の適切な処理など鳥獣が農地に近づきにくくする対策

3本柱のうちどれかだけを取り組むのではなく、被害状況に応じて適切に組み合わせて、総合的に実施することが必要であると言われています。

3本柱の手続きの要否

侵入防止対策生息環境管理を行うにあたっては、役所などの行政に対しての手続きは基本的には必要ありませんが、以下の留意点にお気をつけください。
また、他人の土地で行う場合は土地所有者に承諾を得ましょう。

留意点

・作業にあたって森林の立木を伐採する場合は、伐採届の提出が必要な場合があります。

 

・侵入防止対策、生息環境管理を行う土地が一定の行為を制限する区域などに指定されていないか。
(例)保安林、国立・国定公園の特別保護地区、砂防指定地など
⇒指定されている場合は、行おうとしている作業内容が制限に掛からないか、担当行政庁に確認しましょう。

一方、個体群管理として鳥獣の捕獲をする際には行政の許可を得るなど手続きが必要になります。
では、その手続について見てみましょう。

鳥獣の捕獲方法の大別

鳥獣保護管理法(正式には「鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律」)により、野生の鳥獣(鳥類又は哺乳類)は捕獲が禁止されています。
獣害を起こしているからといって無許可で鳥獣を捕獲することはできません。

 

捕獲を行うには大きく分けて「狩猟」「有害鳥獣捕獲」の2つの方法があります。
上記以外にも許可等を受けずに捕獲できる場合もあるのですが、ここでは割愛します。

 

狩猟とは狩猟者登録という手続きを行い捕獲を行うことです。

 

有害鳥獣捕獲とは、鳥獣保護管理法第9条第1項の許可を得て捕獲を行う許可捕獲のうち、「鳥獣による生活環境、農林水産業又は生態系に係る被害の防止」を目的とする捕獲のことです。有害鳥獣捕獲は、「有害駆除」「有害捕獲」などと呼ばれることもあります。

 

それぞれの違いを簡単に説明すると以下のとおりです。

狩猟 有害鳥獣捕獲
定義 狩猟期間に、法定猟法により狩猟鳥獣の捕獲等(捕獲又は殺傷)を行うこと 法で定める目的で捕獲許可を受けて行う鳥獣の捕獲等又は鳥類の卵採取等
対象鳥獣 狩猟鳥獣(46種、鳥類のひな及び卵を除く) 鳥獣及び卵(狩猟鳥獣以外の鳥獣も含む)
捕獲できる場所 鳥獣保護区、休猟区等を除く狩猟可能区域 許可された場所(どこでも可能)
捕獲できる時期 法令に基づき定められた狩猟期間中 許可された期間(年中いつでも可能)
方法 法定猟法(網猟、わな猟、銃猟) 方法は問わない(危険猟法等については制限あり)
個別の手続き

狩猟免許の取得、毎年度の登録が必要。
申請先:都道府県知事

許可申請が必要
申請先:都道府県知事又は市町村長

狩猟の特徴・留意点

・狩猟鳥獣しか捕獲できません。例えば、ニホンザルは狩猟鳥獣には含まれていないので、狩猟では捕獲できません。
・鳥獣保護区や休猟区など、狩猟ができない場所もあります。
・狩猟期間しか捕獲できません。都道府県によって狩猟期間に違いがあり、北海道は毎年10月1日から翌年1月31日、北海道以外の区域は毎年11月15日から翌年2月15日。さらに、対象狩猟鳥獣や都道府県によっては、猟期を延長又は短縮している場合があります。
狩猟免許を取得した上で、毎年度狩猟者登録の手続きが必要です。種別(網猟、わな猟、第一種銃猟、第二種銃猟)、都道府県ごとに登録する必要があり、例えば、わな猟と第一種銃猟をA県とB県でしたいのであれば、両県とも2つずつ登録しなければなりません。
・毎年度、登録にあたって手数料・狩猟税の納付が必要です。

有害鳥獣捕獲の特徴・留意点

・どのような申請内容の捕獲も可能となっています。例えば狩猟ではできない捕獲も可能で、ニホンザルを鳥獣保護区内・狩猟期間外などの内容で捕獲することも可能です。ただし、鳥獣の保護や住民の安全の確保などに支障を及ぼすおそれがないなどの条件を申請内容が満たしていなければならず、満たしていない場合は許可が下りなかったり、条件付きの許可になる場合があります。また、危険猟法を使用する場合は別途許可申請が必要であったり、住居集合地域等での銃猟の禁止などの制限は免除されません。
・申請は無料です。
・許可対象者は原則として狩猟免許所持者となっています。

 

(以下は、許可権者によって対応が変わる可能性があるので、許可権者に確認が必要です)
・数年にわたって被害がある場合でも、許可期間については年度で区切られることが多いと思われるため、毎年度申請が必要になる場合が多いと思われます。
・狩猟期間中は許可を出していない場合もあります。

狩猟の手続き

狩猟者登録の手続きは狩猟をしようとする都道府県ごとに都道府県知事に行います。
都道府県ごとに手続きの開始日や申請様式、手数料等の納付方法などが異なりますので、詳細についてはホームページなどでご確認ください。
参考に広島県のホームページを掲載します。
【広島県HP:狩猟者登録と狩猟期間について】

 

狩猟者登録が完了すると狩猟者登録証等が交付されます。狩猟をする際は狩猟者登録証の携帯義務があります。
狩猟期間の開始間近で申請をすると、狩猟期間の開始までに狩猟者登録証等の交付が間に合わず、狩猟に出られないという事態にもなりかねますので、余裕を持って申請をしましょう。
多くの都道府県で10月初旬くらいには手続きが始まっていると思われます。あらかじめホームページ等で日程を確認しておきましょう。
また、狩猟期間が始まっても申請は受け付けてくれます。ただし、遅れた分だけ狩猟に出られる日数は減ってしまうので、ご注意ください。

 

猟友会に入会すると、地区によっては会員で集まって狩猟者登録申請書を作成している地区もありますので、その際に記載方法等を指南していただけます。また、手数料・狩猟税の支払いや申請書の提出を取りまとめて行ってくれます。地区によって対応に違いがあることもありますので、詳細については地元猟友会にご確認ください。
また、猟友会の狩猟事故共済保険事業を利用することができるので、狩猟者登録の際に必要なハンター保険の手続きが簡単にできます。
猟友会に入っていない場合は損害保険会社の損害保険契約を自ら契約するか、3,000 万円以上の資産保有があることを証明する書類を作成する必要があります。
会費の負担はありますが、狩猟者登録の手続きが不安な方は猟友会に入ってみるのもご検討ください。

有害鳥獣捕獲の手続き

有害鳥獣捕獲の手続きは都道府県知事または市町村長に行います。
法律上の許可権者は都道府県知事となっていますが、一部の権限を市町村長に委譲している場合が大半です。
例えば広島県ではツキノワグマの有害鳥獣捕獲の手続きは県知事に、それ以外の鳥獣の手続きは市町長に行うことになっています。
お住まいの都道府県か市町村に申請内容を伝えて手続き先がどちらになるかをご確認ください。
また、特別な申請内容の場合は環境大臣に行います。

 

許可権者ごとに申請様式、添付書類、申請窓口などが異なりますので、詳細についてはホームページなどでご確認ください。
参考に広島県のホームページを掲載します。
【広島県HP:鳥獣の捕獲許可について】

ご自身で捕獲しない場合について

このページのここまでの説明は、獣害に遭われた方が自ら捕獲をすることを想定して必要な手続きについて記載してきました。
ただし、狩猟免許を所持していなかったり、技術的・心理的に鳥獣の捕獲ができない場合など自ら申請・捕獲ができない場合もあろうかと思います。そのような場合でも捕獲がしたい時はどうすれば良いかを説明します。

 

①市町村に相談する
市町村では有害鳥獣駆除班(駆除班、有害鳥獣捕獲班、捕獲班などと呼ばれることもあります)を組織しています。
捕獲許可を与えた狩猟者を班員として、市町村の指示により捕獲に当たるという組織です。
市町村に獣害被害を相談して、班員の方に捕獲してもらうということも可能です。
費用は発生しません。
ただし、班員やわなの数にも限りがありますので、なかなか対応してもらえないなどの声を聞くこともあります。

 

話が少し逸れますが、自らが有害鳥獣駆除班に入って捕獲をするということも可能です。
その場合、有害鳥獣捕獲の手続きは必要ありません。
ただし、班員になるためには、「猟友会に入っており、◯年以上狩猟経験があること」などの要件が課せられている場合がありますので、市町村にご確認ください。

 

②狩猟免許を所持している人に依頼して捕獲してもらう
獣害に遭っている人から捕獲の依頼を受けた人が有害鳥獣捕獲の手続きをすることも認められています。
集落内で狩猟免許を所持している方に依頼して集落内での捕獲を担ってもらっている事例はあるようです。

罰則

狩猟者登録を受けずに、また、捕獲許可を得ずに鳥獣を捕獲した場合、一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処されます。

鳥獣保護管理法第83条第1項

次の各号のいずれかに該当する者は、一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する

 

第1号
第8条の規定に違反して狩猟鳥獣以外の鳥獣の捕獲等又は鳥類の卵の採取等をした者(許可不要者を除く。)

 

第2号
狩猟可能区域以外の区域において、又は狩猟期間(第11条第2項の規定により限定されている場合はその期間とし、第14条第2項の規定により延長されている場合はその期間とする。)外の期間に狩猟鳥獣の捕獲等をした者(第9条第1項の許可を受けた者及び第13条第1項の規定により捕獲等をした者を除く。)

 

第5号
第55条第1項の規定に違反して登録を受けないで狩猟をした者

まとめ

・獣害対策には「個体群管理」「侵入防止対策」「生息環境管理」の3本柱がある。
・「侵入防止対策」「生息環境管理」を行う際には手続きは基本的には必要ないが、「個体群管理」として鳥獣の捕獲をする際には手続きが必要。
・捕獲方法には「狩猟」と「有害鳥獣捕獲」があり、それぞれに特徴・留意点があるので、獣害の状況等に合わせて捕獲方法を選択して手続きを行う。ただし、どちらの捕獲方法でも狩猟免許の取得が前提となるので、まずは狩猟免許の取得が必要。
・ご自身で捕獲しない場合でも有害鳥獣駆除班などに捕獲してもらう方法がある。
・手続きを行わず捕獲をした場合、罰則がある。

 

なるべく分かりやすい説明を心がけましたが、参考になったでしょうか。
手続きに不安のある方や申請書の作成を依頼したいという方はお気軽に当事務所までお問い合わせください。

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